近頃、「免疫力を高めよう」というキャッチコピーをよく見かけますよね。また、インフルエンザや風邪が流行る季節には、つい「免疫は高ければ高いほどよい」と思いがちです。
しかし、免疫は単純に強くすればよいものではありません。免疫の働きが必要以上に強くなり、本来は害のないものにまで過剰に反応する状態は、一般に「免疫暴走」と表現されることがあります。
大切なのは、免疫を無理に高めようとするのではなく、健やかに働ける状態を支えること。今回は、免疫暴走と呼ばれる過剰な免疫反応の仕組みと、健康維持のために見直したい生活習慣をご紹介します。
※本記事では、免疫の働きが過剰になり、体に好ましくない影響を及ぼす状態を、分かりやすく「免疫暴走」と表現しています。「免疫暴走」は特定の病名や診断名を示すものではありません。
※本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の症状の診断・治療を目的としたものではありません。体調に不安がある場合や、持病がある方・薬を服用している方は、自己判断せず医師・薬剤師にご相談ください。
免疫暴走とは?免疫は高ければ高いほどよいわけではない

近年、「免疫力を高める」という言葉がよく使われますが、免疫はただ強く働けばよいというものではありません。
免疫には、ウイルスや細菌などの異物から体を守る働きがある一方、免疫の働きが必要以上に過剰となり、本来は害のないものや自身の体にまで過剰に反応してしまう状態は、メディアや一般の解説で「免疫暴走」と比喩的に表現されることがあります。
腸には多くの免疫細胞が存在し、腸内細菌やその代謝物が免疫機能の調節に関わることも研究されています。ただし、腸内環境を整えることで免疫暴走を防げる、あるいは特定の病気を予防できると証明されているわけではありません。
免疫を自分で直接コントロールしようとするのではなく、バランスのよい食事や十分な睡眠、適度な運動などを通じて、健やかな体の働きを支えることが大切です。
免疫暴走によって起こる過剰な免疫反応

免疫暴走と表現される状態には、アレルギー反応から、感染症などに伴う重篤な炎症反応まで、原因も重症度も異なるさまざまなものがあります。これらを同じ病気として捉えないことが大切です。
私たちの体には、大きく分けて次の二つの免疫の仕組みがあります。
- ■異物の侵入に対して速やかに反応する「自然免疫」
- ■過去に接触した異物の特徴を記憶し、より特異的に反応する「獲得免疫」
本来、免疫には、体に害を及ぼすものには反応し、害のないものには過剰に反応しないための調節機能が備わっています。しかし、この調節がうまく働かなくなると、必要以上の免疫反応が起こり、体に好ましくない影響を及ぼすことがあります。
※食事や生活習慣で免疫を“直接コントロール・調整”することはできません。
1. アレルギー反応:本来無害なものへの過剰な反応

花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー疾患は、本来は人体に無害な特定の物質(アレルゲン)に対して、免疫システムが過剰に反応してしまうことで引き起こされます。
耳鼻咽喉科医とその家族を対象として2019年に実施されたアンケート調査では、アレルギー性鼻炎全体の有病率が49.2%と報告され、1998年、2008年に行われた同様の調査と比べて増加していました。[1] ただし、一般人口を無作為に抽出した調査ではない点には留意が必要です。
花粉症やアレルギー性鼻炎の症状が強く、日常生活に支障が出ている場合は、市販薬だけで対応を続けるのではなく、耳鼻咽喉科やアレルギー科を受診し、ご自身に合った治療法を相談しましょう。
2. サイトカインストーム:全身に強い炎症反応が広がる状態

ウイルスなどに感染すると、体を守るために「サイトカイン」と呼ばれる情報伝達物質が分泌されます。このサイトカインが過剰に産生されると、全身に強い炎症反応が広がり、自分自身の細胞や組織にまで影響が及ぶことがあります。このような状態は「サイトカインストーム」と呼ばれます。
新型コロナウイルス感染症の重症化にも、過剰な炎症反応やサイトカインが関与することが報告されており、国内外で研究が続けられています。[2][3]
※サイトカインストームは重い感染症や疾患に伴って発生する特殊な病態であり、日々の食事や生活習慣で「免疫力を高めすぎた」ことによって生じるものではありません。医療機関での管理が必要であり、生活習慣の工夫だけで予防・改善できるものではない点にご留意ください。
腸内細菌と免疫機能にはどのような関係がある?

なぜ免疫は過剰に働いてしまうことがあるのでしょうか。その一因として、腸内環境のバランスの乱れが指摘されています。
例えば、腸内細菌が作り出す酪酸などの短鎖脂肪酸が、過剰な免疫反応を抑える働きを持つ「制御性T細胞」の分化に関与することが、基礎研究で報告されています。[4]
また、腸内細菌の多様性や構成の変化と、アレルギーなどの病気との関連も研究されています。しかし、その関係は非常に複雑で、特定の菌が多い・少ないというだけで、免疫の状態や病気の発症を判断することはできません。
※これらの知見には、動物実験や基礎研究の段階にあるものも多く含まれます。腸内環境を整えれば、アレルギーや感染症を必ず予防・改善できると明確に証明されているわけではありません。
健やかな免疫機能を支える基本的な生活習慣

免疫機能は、特定の食品や一つの習慣だけで決まるものではありません。食事、睡眠、運動、休養など、毎日の生活習慣を無理のない範囲で整えることが、健康な体を維持するための基本となります。
自律神経、腸内細菌、免疫機能が互いに関連することも研究されていますが、深呼吸や入浴などの特定の習慣によって、免疫を直接「整えられる」とは限りません。ここでは、免疫を操作する方法ではなく、健やかな生活リズムを支える習慣としてご紹介します。
1. 朝はおだやかに活動を始める

朝は、睡眠から覚醒へと移り、一日の活動を始めるタイミングです。無理に体を刺激するのではなく、できることから穏やかに始めてみましょう。
深呼吸と軽い動きで目覚めの準備を
起きたら、ゆっくりと深呼吸し、伸びをするような軽いストレッチを行ってみましょう。体調に合わせて無理なく体を動かすことで、一日の活動を始めるきっかけになります。
朝の光を浴びる
朝の光を浴びることは、体内時計を整え、睡眠と覚醒のリズムを保つうえで大切です。[6] 余裕がある日は、朝の光を浴びながら5~10分ほど歩くのもよいでしょう。ただし、体調や天候に合わせ、無理のない範囲で行ってください。
朝食で生活と排便のリズムをつくる
朝食をとると、胃に食べ物が入った刺激で大腸が動き出す「胃結腸反射」が起こりやすくなります。忙しい朝も、無理のない範囲で朝食をとることを意識してみましょう。朝食をとる習慣は、排便のリズムを整えるきっかけにもなります。
腸内環境を意識する場合は、発酵食品や、腸内細菌に利用される水溶性食物繊維を含む食品を取り入れるのも一つの方法です。例えば、納豆と野菜・海藻を具にした味噌汁、オートミールとヨーグルトなどは、発酵食品と食物繊維を一緒にとりやすい組み合わせです。

発酵食品というと、「生きた菌をとるもの」というイメージがあるかもしれません。しかし近年は、生きた微生物だけでなく、発酵や加熱・加工を経た後に残る不活化した微生物や、その構成成分についても研究が進められています。
こうした研究の中で使われている言葉の一つが「ポストバイオティクス」です。ポストバイオティクスとは、死菌や代謝物など、体に良い働きをもたらす微生物由来の成分のことです。
国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学会(ISAPP)は、ポストバイオティクスを「宿主に健康上の利益をもたらす、不活化した微生物および/またはその成分を含む調製物」と定義しています。[5]
※不活化した微生物を含む発酵食品が、すべてポストバイオティクスに該当するわけではありません。ポストバイオティクスと呼ぶためには、健康上の利益が確認されていることなど、一定の条件を満たす必要があります。
※ポストバイオティクスに関する研究は進みつつありますが、働きや効果にはまだ解明されていない点も多く、特定の健康効果を保証するものではありません。発酵食品だけに偏らず、さまざまな食品を組み合わせたバランスのよい食事を心がけることが大切です。
2. 夜は「しっかり休む準備」をする

一日の終わりには、心身を落ち着かせ、眠りに入りやすい環境を整えることが大切です。
ぬるめのお風呂でリラックスする
シャワーだけで済ませることが多い方は、体調に合わせて湯船に浸かる習慣を取り入れてみるのもよいでしょう。就寝の1~2時間前に入浴して体を温めることは、入眠を促す方法の一つとして紹介されています。[6]
極端に熱いお湯や長時間の入浴は、かえって入眠を妨げたり、体に負担をかけたりする可能性があります。本人がぬるめと感じる程度の湯温を目安に、無理のない範囲で入浴しましょう。心臓や血圧に不安がある方は、入浴の温度や時間について医師にご相談ください。
就寝前は強い光を避ける
夜に強い光を浴びると、体内時計や、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌に影響し、寝つきを妨げることがあります。[6]
就寝前は照明を少し暗くし、スマートフォンやパソコンの画面を見る時間や明るさも控えめにしましょう。就寝時間が遅くなる日も、眠る前だけは意識的に落ち着いて過ごす時間をつくることをおすすめします。
まとめ:免疫暴走を正しく理解し、基本的な健康習慣を大切に

免疫は、ただ高めればよいものではありません。一方で、特定の食品や生活習慣によって免疫を直接「整えたり」、免疫暴走を防いだりできると証明されているわけでもありません。
腸内細菌が作り出す成分と免疫機能との関係については研究が進められていますが、基礎研究や動物実験の段階にあるものも含まれます。「腸内環境を整えればアレルギーを防げる」といった単純な関係として捉えないことが大切です。
まずは、発酵食品や食物繊維を含むさまざまな食品を組み合わせ、栄養バランスのよい食事を心がけましょう。十分な睡眠、適度な運動、休養を含め、毎日の生活習慣を無理のない範囲で見直すことが、健やかな体の働きを支える基本となります。
原因不明の体調不良が続く場合や、アレルギー症状、発熱、強い倦怠感などが長引く場合は、生活習慣だけで対応しようとせず、早めに医療機関を受診してください。
※原因不明の体調不良が続く場合や、アレルギー症状、発熱・強い倦怠感などが長引く場合は、生活習慣の見直しだけで対応しようとせず、早めに医療機関を受診してください。
[1] 松原篤ほか「鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年、2008年との比較):速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として―」日本耳鼻咽喉科学会会報、2020年、123巻6号、485–490頁
鼻アレルギーの全国疫学調査2019
[2] 平野俊夫「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はサイトカインストーム症候群である」COVID-19有識者会議、2020年5月28日
COVID-19有識者会議
[3] 京都府立医科大学「COVID-19急性呼吸不全患者における重症化病態の解明への新手法『気管支マイクロサンプリング法』で肺内炎症サイトカインを分析!」2024年4月24日
京都府立医科大学
[4] 理化学研究所「腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ」2013年11月14日
理化学研究所
[5] Salminen S, et al. “The International Scientific Association of Probiotics and Prebiotics(ISAPP)consensus statement on the definition and scope of postbiotics.” Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology. 2021;18:649–667.
ISAPPポストバイオティクス・コンセンサス声明
※本記事は、上記の文献および公的機関等が公開している情報をもとに作成しています。研究結果には、基礎研究や特定の条件下で実施された調査も含まれており、すべての方に同じ結果が当てはまるとは限りません。医学的知見の更新に応じて、記事内容を随時見直します。

こんにちは、ナカタニです。三姉妹の母として子育てに奮闘してきましたが、今では子育てもひと段落し、おだやかな毎日を過ごしています。健やかな毎日を送るためには、まず自分の体を知り、日々の暮らしの中で無理なく整えていくことが大切だと考えています。健康について正しい知識を身につけ、分かりやすくお伝えしたいという思いから、文部科学省後援の「健康管理能力検定1級」に合格し、「健康管理士一般指導員」の資格を取得しました。さらに、体の内側から健やかさを考えるために、特定非営利活動法人 日本セルフメンテナンス協会の「腸内環境管理士」、一般社団法人 日本能力教育促進協会認定の「ファスティングコンサルタント」の資格も取得しています。また、毎日の食事から健康を支える知識を深めるため、日本統合医学協会認定の「薬膳検定1級」および「アーユルヴェーダ・スパイス検定1級」も取得しました。私の毎日の楽しみは、美味しいお酒と観葉植物を育てること。美酒を生み出す「発酵」の奥深さや、植物が持つ力に触れる時間も、暮らしの大切な一部です。植物を元気に育てるうえで大切なのは「根っこ」。私は、人の健やかさを考えるうえでも、腸はまるで“体の根っこ”のような存在だと感じています。これまで学んできた健康管理、腸内環境、ファスティング、薬膳、アーユルヴェーダやスパイスなどの知識をもとに、腸にまつわるお話やファスティング、毎日を健やかに過ごすためのヒントを、できるだけ分かりやすくお届けしていきます。難しいことを頑張るのではなく、毎日の暮らしの中でできることから。皆さまの健やかな毎日に、少しでもお役立ていただければ幸いです。ぜひご一読ください。
