この記事でわかること
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- 産業化が進んだ国では、腸内細菌の数や種類(多様性)が減少しているという研究報告があること
- 花粉症などのアレルギー疾患の増加と、腸内細菌の変化との関連が指摘されていること
- 腸内細菌が減る主な生活習慣要因(食物繊維不足、抗生物質、自然との触れ合いの減少など)
- 「腸もれ(リーキーガット)」という考え方の、現時点での科学的な位置づけ
「日本人の腸内細菌は昔より減っている?」「現代人は腸内細菌が少ない?」――そんな疑問を持ったことはありませんか。
実際、日本人の便の量は戦前と比べて減少しているとする報告があり、便には多くの腸内細菌が含まれることから、腸内細菌の量が変化している可能性を示す手がかりの一つと考えられています。また、世界的に見ても、産業化が進んだ国の都市部では、伝統的な生活を送る人々と比べて腸内細菌の種類や多様性が低い傾向が報告されています。
こうした腸内細菌の変化には、食物繊維の摂取量の減少、加工食品中心の食生活、抗生物質の使用、自然との触れ合いの減少など、現代の食生活や生活環境が関係している可能性が指摘されています。
そこでこの記事では、「日本人の腸内細菌は本当に減っているのか?」という疑問について、腸内細菌の数と多様性の変化に注目し、国内外の研究をもとに農学博士がわかりやすく解説します。
目次
腸内細菌とは何か、そして「減っている」と言われる理由
腸内細菌とは何か
腸内細菌とは、私たちの腸の中に棲みついている、目に見えないほど小さな微生物(細菌)の集まりです。健康な成人の腸には、数百〜1,000種類ほど、数にして40兆個以上ともいわれる細菌が棲んでいると考えられています。これらは単なる「同居人」ではなく、食べ物の消化を助けたり、免疫の働きを整えたりする、体にとって欠かせないパートナーです。
「今の日本人の腸内細菌は、昔より少ない」と言われる理由
「今の日本人は、昔の日本人より腸内細菌が少ない」と聞いたことがある方もいるかもしれません。これは単なる噂ではなく、便の量や腸内細菌の多様性など、いくつかの研究結果からその可能性が示されています。ここからは、その具体的な手がかりを見ていきましょう。
腸内細菌の状態を知る手掛かりはあるの?
腸内細菌の状態を知るために便の量の変化を見る
腸内細菌の状態を知る手がかりの一つが、便の量です。便の固形成分には腸内細菌(生菌と死菌)が多く含まれるため、便量が減ることは、腸内細菌の量が減っている可能性を示す一つの目安と考えられています。
第二次世界大戦中のガダルカナル島では、アメリカ軍が日本軍の野営地に残された便の量から兵力を推定した際、日本人の便量の多さを考慮できず、実際より多い兵力と見誤ったという逸話があります。当時の日本人の1日あたりの便量は平均400g程度、アメリカ人は100g程度だったとされます。現在の日本人の便量は150〜200g程度まで減少しているという報告もあり、食物繊維の摂取量や腸内細菌の変化との関連が注目されています。
なお、日本人と外国人の体質差については【記事:日本人と外国人でことなる健康常識とは?遺伝子の違いから見る体質の差】で詳しく解説しています。
世界的に見ても「先進国の腸」は多様性が乏しい
こうした腸内細菌の変化は、日本だけでなく世界でも報告されています。
例えば、ベネズエラの伝統的な農村生活を送る先住民では、平均約1,800種類の腸内細菌が確認されたのに対し、アメリカの都市部住民では約1,200種類だったという報告があります。この違いには、抗生物質の使用や加工食品中心の食生活、衛生環境の変化などが関係していると考えられています。
さらに2022年の研究では、先進国で生まれた赤ちゃんは、母乳に含まれる糖を利用する特定の腸内細菌が少ないことも報告されており、腸内細菌の変化が世代を超えて続いている可能性も示されています。
| 比較対象 | 腸内細菌の多様性の傾向 | 主な関連要因 |
| 狩猟採集民・伝統的な農村部の人々 | 高い | 食物繊維の多い食事、土や動物との接触が多い生活 |
| 産業化が進んだ国の都市部住民 | 低い | 加工食品中心の食事、抗生物質の使用、高度な衛生環境 |
| 乳児(先進国生まれ) | 母乳を分解する菌が少ない傾向 | 帝王切開、抗生物質、粉ミルクの普及など |
【出典】Sonnenburg & Sonnenburg, Science, 2019 Sonnenburg & Sonnenburg, Nature Reviews Microbiology, 2019 Obregon-Tito et al., Nature Communications, 2015 Stanford Medicine News Center, 2022
腸内細菌の変化とアレルギー、そして食生活の影響
なぜ腸内細菌の変化がアレルギーと関係するのか

花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー疾患は、この半世紀で日本に大きく増えました。厚生労働省によると、国民の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えているとされています。
腸には体全体の免疫細胞の半数以上が集まっており、腸内細菌は免疫の働きを調整する重要な役割を担っています。腸内細菌の種類が減少し、菌のバランス(腸内フローラ)が乱れると、本来は反応する必要のない花粉や食べ物の成分に対して、免疫が過剰に反応しやすくなる可能性が指摘されています。
ただし、アレルギー疾患の増加には遺伝や大気環境など複数の要因が関わるため、腸内細菌の変化だけが原因と断定することはできません。
【出典】厚生労働省の資料
腸内細菌の多様性に食生活が関連する要因
腸内細菌の多様性を左右する要因は一つではなく、日々の食生活や生活習慣など、複数の要因が関係すると考えられています。腸内細菌の多くは、野菜や穀物に含まれる食物繊維をえさにして育ちます。そのため、食物繊維の摂取量が減ると、これらの菌にとって栄養が不足する状態が続くことになります。人工甘味料や乳化剤などの食品添加物についても、腸内細菌に影響を与える可能性が研究で指摘されています。
人工甘味料についてはこちらの記事もご覧ください。【記事:人工甘味料を摂り続けても大丈夫?知っておきたい最新エビデンス】
日本人の腸内細菌に薬剤や生活環境がもたらす影響
薬剤や医療行為に関わる要因
抗生物質は細菌感染症の治療に欠かせない薬ですが、日本人約4,200人を対象とした大規模研究では、腸内細菌叢への影響が食習慣や生活習慣よりも大きいことが示されています。もちろん、必要な治療のための使用を避けるべきということではありません。風邪などウイルスが原因の症状に対して不必要に使用しないことが、腸内細菌を守るうえで大切だと考えられています。
【出典】永田尚義ほか, Gastroenterology 2022(医学書院解説)
自然との触れ合いに関わる要因
土壌にはさまざまな種類の細菌が棲んでおり、土や動植物と触れ合う機会は、腸内細菌の多様性を保つうえでも意味があると考えられています。都市化によって子どもの頃から土に触れる機会が減ったことも、腸内細菌の多様性が失われる一因として指摘されています。野菜が土を落として販売されるようになったことも、こうした身近な生活環境の変化の一例といえるでしょう。
| 要因 | 具体例 | 腸内細菌への影響(考えられているもの) |
| 食生活 | 食物繊維不足、加工食品、人工甘味料 | 菌のえさの不足、一部の菌の減少 |
| 薬剤 | 不必要な抗生物質の使用 | 多様性の一時的・長期的な低下 |
| 生活環境 | 土や自然との接触減少、過度な洗浄 | 多様な菌を獲得する機会の減少 |
「腸もれ(リーキーガット)」は腸の不調の原因?
腸内細菌のバランスが崩れると、「腸もれ」または「リーキーガット」と呼ばれる状態になる、と話題になることがあります。これは、腸の壁を構成する細胞同士のすき間が広がり、本来は通過しにくい物質が腸の外へ漏れ出しやすくなるという考え方です。
腸の透過性そのものは、測定できる確かな現象
腸の壁の通しやすさ(腸管透過性)は、実際に測定できる生理学的な現象です。激しい運動や特定の薬剤などによって一時的に変化することが確認されており、腸管のバリア機能はさまざまな要因の影響を受けます。
【出典】Fasano et al., Internal and Emergency Medicine, 2023
「腸もれ」が不調の原因という考えは、まだ仮説の段階
一方で、「腸もれ」がさまざまな不調や病気の直接の原因になるという考え方は、現時点では確立されていません。腸管透過性の異常とさまざまな疾患との関連が研究されている一方、腸のバリア機能を正常化することで幅広い症状が改善するかどうかは、まだ明らかになっていません。断定的な情報に振り回されず、今後の研究を見守ることが大切です。
腸内細菌を大切にするために今日からできる工夫
腸内細菌の多様性を完全に元通りにする方法はまだ確立されていませんが、日常生活の中で取り入れやすい工夫はいくつかあります。
食物繊維を意識してとる
野菜、海藻、きのこ、豆類、全粒穀物など、食物繊維を含む食品を毎日の食事に取り入れることは、腸内細菌の栄養源を増やす基本的な工夫です。同じ食材に偏らず、さまざまな種類の食品を組み合わせることもポイントです。
自然との触れ合いと、抗生物質の正しい使い方
庭やベランダでの土いじり、公園での外遊びなど、土や自然に触れる機会を日常に取り入れることも、多様な微生物と接する機会につながると考えられています。もちろん、外遊びの後の手洗いなど、基本的な衛生習慣はこれまで通り大切です。また、抗生物質が必要な場合は、医師の指示のもとで適切に使用することが前提です。そのうえで、ウイルスが原因の風邪などに対して不必要な使用を避けることが、腸内細菌を長い目で守ることにつながります。
よくある質問(FAQ)
現代人の腸内細菌は本当に昔より減っているのですか?
便の量の変化や国際比較の研究から、その可能性が示されています。日本人の便量は戦前の400グラム程度から、現在は150〜200グラム程度まで減少したとする報告があり、産業化が進んだ国ほど腸内細菌の多様性が低い傾向も報告されています。ただし、便量の変化を厳密に定量した公的な統計は限られているため、あくまで腸内細菌の変化を考える一つの手がかりとして捉えることが大切です。
腸内細菌が減るとアレルギーになるのですか?
腸内細菌の減少がアレルギーの直接的な原因になるとは断定できませんが、関連は指摘されています。腸内細菌は免疫のバランスを整える役割を担っており、その多様性の低下が免疫の調整に影響する可能性が研究されています。ただし、アレルギー疾患の増加には遺伝や環境などさまざまな要因が関わっており、腸内細菌の変化だけで説明できるものではありません。
「腸もれ(リーキーガット)」は病気なのですか?
現時点で「腸もれ(リーキーガット)」は正式な病名として確立されていません。腸の透過性が変化する現象自体は測定可能ですが、それが幅広い不調の直接的な原因になるという考え方は、まだ研究が進められている段階です。過度に不安がらず、今後の研究の進展を見守る姿勢が大切です。
腸内細菌を増やすには何をすればいいですか?
食物繊維を意識してとることと、不必要な抗生物質の使用を避けることが基本です。加えて、土や自然と適度に触れ合う機会を日常生活に取り入れることも、多様な微生物と接する機会を増やす工夫として考えられています。
まとめ
現代の日本人では、腸内細菌の数や種類(多様性)が昔より減っている可能性が示されています。今回のポイントを振り返りましょう。
- 便の量は戦前より減少しており、腸内細菌の変化との関連が考えられています。
- 産業化が進んだ国ほど、腸内細菌の多様性が低い傾向が報告されています。
- 食物繊維不足や抗生物質の使用、自然との触れ合いの減少などが、腸内細菌の多様性に影響する可能性があります。
- 腸内細菌の多様性の低下は、アレルギー疾患の増加との関連も指摘されています。
- 「腸もれ(リーキーガット)」は研究が進められている段階で、現時点では確立した病名ではありません。
食物繊維を意識した食事や自然との適度な触れ合い、不必要な抗生物質の使用を避けることが、腸内細菌を大切にするための基本的な習慣と考えられます。
本記事は研究内容を一般向けに紹介するものであり、特定の商品による健康効果を示すものではありません。研究対象・条件は、通常の生活とは異なる場合があります。
岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。腸内細菌や発酵食品の研究者として国内外で論文を多数発表。腸の健康や食に関する講演・セミナー、メディアへの寄稿など幅広く活動中。著書に『「腸内酵素力」で、ボケもがんも寄りつかない』(講談社)など。

