この記事でわかること
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- 日本の健康常識の多くが西洋医学をベースにしていること
- 日本人と外国人で遺伝子配列に違いがあり、体質にも明確な差がみられる例があること
- 乳糖不耐症・アルコール代謝・内臓脂肪のつきやすさなど、実際に確立されている体質差の具体例
目次
健康常識の多くは「西洋医学」がベース
日本のテレビや雑誌で紹介される健康常識は、その多くが西洋医学の考え方をベースにしています。
明治時代に置き換わった日本の医学
江戸時代までの日本では、中国から伝わった中医学を日本風にアレンジした漢方医学や薬膳、食養が広く行われていました。しかし明治時代になると、日本は欧米諸国の軍事力に強い衝撃を受け、国を強くするための政策の一環として、けがの治療を得意とする西洋医学を正式な「医学」として採用します。これは歴史的な流れによるものであり、西洋医学と漢方医学のどちらが優れているという単純な話ではありません。それぞれ得意な分野が違う、と理解しておくとよいでしょう。
見直されはじめている漢方・薬膳の知恵
近年では、体質や体調を内側から整えるという漢方・薬膳の考え方について、一部は国際的な研究によって科学的に検証されるようになってきました。そのため、西洋医学と伝統医学、それぞれの知見を組み合わせて活用しようという考え方も広がっています。
さらに、長い歳月を経た地理的・食文化的な背景から、日本人と外国人とは遺伝的な体質の違いがあることがわかっています。
日本人と外国人、遺伝子配列にはどんな違いがあるのか
私たちの体は、遺伝子の情報をもとにつくられています。この遺伝子配列の違いが、体質の違いにも関わっていると考えられています。

全ゲノム解析でわかった日本人特有の変異
東北大学東北メディカル・メガバンク機構は2015年、日本人1,070人を対象に遺伝子をすべて調べる「全ゲノム解析」を行いました。その結果、遺伝子配列の個人差(一塩基多型)が約2,120万個見つかり、そのうち56.6%(約1,200万個)は、これまで世界の遺伝子データベースに登録されていなかった新しいものだったと報告されています。こうした情報は、日本人の遺伝的な特徴を知るうえで重要な手がかりとされています。
【出典】Nagasaki et al., Nature Communications, 2015
遺伝子の違いが意味すること
遺伝子配列に違いがあるということは、体質にもさまざまな違いが生まれる可能性があるということです。例えば、実際に日本人(東アジア人)と欧米人を比べると、消化機能やアルコール代謝、薬の効き方などの一部について、明確な差が確認されています。次の章では、その代表的な例を紹介します。
実際に確認されている日本人と欧米人の体質差
「体質が違うから」という理由で健康常識が語られることはよくありますが、実際に研究で裏付けられている違いと、根拠の乏しい俗説とを見分けることが大切です。ここでは、しっかりとしたエビデンスがある3つの例を紹介します(このほかにも、カフェインの代謝のように、遺伝子タイプの頻度には民族差があっても、実際の体質差としては結論が分かれている例があります。詳しくはFAQで補足します)。
乳糖不耐症になりやすい体質
牛乳に含まれる乳糖を分解する消化酵素「ラクターゼ」の働き方には、民族による大きな違いがあります。例えば、北西ヨーロッパ系の人々は、大人になってもラクターゼが働き続ける遺伝子タイプを7〜9割ほどの高い割合で持っているのに対し、東アジア人はこのタイプをほとんど持たないと報告されています。実際に乳糖不耐症と判定される割合も、欧米人では1〜15%程度なのに対し、日本人では50%以上にのぼるという資料があります。「乳製品は体に良い」という欧米の健康常識が、そのままの形では日本人に当てはまりにくい場合があることを示す代表的な例といえます。
【出典】Ingram et al., PLoS Computational Biology, 2009 日本畜産技術協会, 2021
お酒に弱い体質(アルコール代謝の違い)
お酒を飲むと顔が赤くなる「フラッシング反応」は、東アジア人に特徴的な体質です。例えば、アルコールが分解される途中でできる有害物質アセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)の働きが弱いタイプの遺伝子を持つ人は、日本人では約40〜45%にのぼるのに対し、欧米人ではこのタイプはほとんど見られないと確認されています。東アジア人の約3〜4割がこのフラッシング反応を示すと報告されており、「お酒は飲み慣れれば強くなる」という考え方が、分解酵素の働きが遺伝的に弱い人には当てはまらない場合がある、という点はよく知られた体質差の一例です。
【出典】環境省 アセトアルデヒドに係る健康リスク評価資料 日本衛生学会誌, 1999 Brooks et al., PLoS Medicine, 2009
内臓脂肪がつきやすい体質
体重や体格(BMI)が同じでも、日本人は欧米人より内臓脂肪がつきやすい体質であることが、複数の研究で確認されています。例えば、日本人男性239名と米国白人男性177名を比較した研究では、腹囲(ウエストまわり)が同じ条件でも、日本人の方が内臓脂肪の面積が有意に大きいことが示されました。さらに、日本人・韓国人・日系アメリカ人・米国白人の4つのグループ、合計1,212名を比較した国際研究でも、お腹の脂肪全体に占める内臓脂肪の割合は、日本人50.0%・韓国人48.5%に対して米国白人は41.0%と、有意に高いことが確認されています。ただし内臓脂肪は体質(遺伝的な要因)だけでなく、食生活や生活環境も大きく影響しています。
さらに、内臓脂肪がつきやすい体質の場合、脂質の摂取量に注意が必要です。「体に良い油」だからとオリーブ油を大量に使いすぎないようにしましょう。また、ココナッツオイルは90%程度が飽和脂肪酸でできているため、さらに気をつけるべき油です。
【出典】Kadowaki et al., International Journal of Obesity, 2006 Kadowaki et al., Metabolic Syndrome and Related Disorders, 2018
よくある質問(FAQ)
日本人と外国人では、健康常識が違うことがあるのですか?
はい、遺伝子配列の違いにより、消化機能やアルコール代謝、内臓脂肪のつきやすさなどに明確な体質差があることが確認されています。乳糖不耐症になりやすい体質、お酒に弱い体質、内臓脂肪がつきやすい体質は代表的な例です。欧米で確立された健康常識が、そのまま日本人にも当てはまるとは限らない点に注意が必要です。
【出典】Storhaug et al., 2017 Brooks et al., 2009 Kadowaki et al., 2006
なぜ日本人は牛乳でお腹がゆるくなりやすいのですか?
乳糖を分解する消化酵素の働きが、成人後に低下しやすい体質の人が多いためです。北西ヨーロッパ系の人々は、大人になってもこの酵素が働き続ける遺伝子タイプを高い割合で持っていますが、東アジア人はこのタイプをほとんど持たないと報告されています。少量から試す、乳製品の種類を変えるなどの工夫が知られています。
お酒に強い・弱いは体質で決まっているのですか?
はい、遺伝的にアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱いタイプの人が、東アジア人には一定の割合で存在します。日本人の約4割がこのタイプに該当するとされ、これは慣れや練習で変わるものではありません。無理な飲酒は避けることが大切です。
日本人はカフェインに敏感というのは本当ですか?
カフェインを分解する酵素(CYP1A2)が弱い遺伝子タイプは、日本人で23〜32%と白人の1%前後を大きく上回ります。しかし、実際の生活でカフェインへの感受性が高いかどうかについては研究によって見解が分かれており、はっきりと断定することはできません。CYP1A2の働きには、同じ民族の中でも最大15倍ほどの個人差があることが知られています。「日本人だからカフェインに弱い」と一律に言い切るのではなく、喫煙習慣や経口避妊薬の使用といった環境要因も含めた個人差としてとらえるのが、現時点では妥当といえるでしょう。
まとめ
日本人と外国人では遺伝子配列に違いがあり、乳糖不耐症になりやすい体質、アルコール代謝の弱さ、内臓脂肪のつきやすさなど、研究で明確に確認されている体質差が複数あります。一方でカフェインの代謝のように、遺伝子タイプの頻度には民族差があっても、実際の体質差としての結論が研究によって一致していない例もあります。こうした体質差があるからといって、あらゆる健康常識をそのまま当てはめてよいというわけではありません。欧米発の健康情報を参考にするときは、「体質の違いがあるかもしれない」という視点を持ちながら、根拠がしっかり確認されている情報かどうかを見極めることが大切です。
岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。腸内細菌や発酵食品の研究者として国内外で論文を多数発表。腸の健康や食に関する講演・セミナー、メディアへの寄稿など幅広く活動中。著書に『「腸内酵素力」で、ボケもがんも寄りつかない』(講談社)など。

