この記事でわかること
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- 硝酸態窒素は野菜にもともと含まれる自然な成分で、育て方によって量に差が出ること
- 「旬の野菜を選ぶ」「茹でて茹で汁を捨てる」の2つが、減らすための効果的な工夫であること
- 赤ちゃんの離乳食では、この2つの工夫をとくに丁寧に行いたいこと
- 世界の専門機関が摂取量の目安を示しており、日々の選び方次第でコントロールできること
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スーパーの野菜売り場で、「これは旬の野菜ではないな」と感じる野菜を手に取ったとき、ふと不安になったことはありませんか。「季節外れの野菜は硝酸態窒素が多い」という話を耳にして、野菜選びに気を遣うようになった方もいるでしょう。
結論から言うと、硝酸態窒素は野菜が土壌から吸収する、もともと自然に含まれている成分です。特別な汚染物質ではありません。ただし、野菜の種類や栽培環境、肥料の与え方などによって、含まれる量に差が生じることがあります。
本記事では、農学博士の監修もと、硝酸態窒素が多くなりやすい野菜の特徴から、今日から実践できる「減らすための選び方・食べ方」まで、専門的な内容をできるだけわかりやすく解説します。それではまず、硝酸態窒素とはどのような成分なのか、基本から見ていきましょう。
目次
硝酸態窒素ってそもそも何? 野菜に含まれるのは自然なこと
硝酸態窒素とは植物の成長に欠かせない「窒素」の形のひとつ
硝酸態窒素とは、野菜などの植物が土壌から吸収する窒素の形のひとつです。植物は吸収した窒素を材料として、体をつくるアミノ酸やタンパク質などを合成します。ただし、吸収した窒素がすべて成長に使われるわけではなく、一部は硝酸態窒素として葉や茎などに蓄積されます。
硝酸態窒素の量は、野菜の種類や栽培環境で変わる
野菜に含まれる硝酸態窒素の量は、野菜の種類だけでなく、栽培環境や肥料の与え方などによっても大きく変わります。たとえば同じホウレン草でも、育てられた環境によって硝酸態窒素の含有量は増えたり減ったりします。つまり、野菜に含まれる硝酸態窒素は一律ではなく、選び方や調理法を工夫することで、日々の摂取量を抑えることもできます。
なぜ硝酸態窒素は「季節外れの野菜」に多くなりやすいのか
日光が不足すると、硝酸態窒素が野菜に蓄積しやすくなる

野菜には、吸収した硝酸態窒素をアミノ酸などに変換する酵素があり、この働きは光を浴びることで活発になります。そのため、十分に光を浴びて育った野菜ほど硝酸態窒素の変換が進み、野菜の中に蓄積される量は少なくなる傾向があります。実際に、光を強く当てる実験では、数日間で葉に含まれる硝酸態窒素の濃度が大きく低下することが確認されています。
硝酸態窒素の量を左右するのは肥料の量と与えるタイミング
ただし、硝酸態窒素の濃度に大きく影響するのは、日照だけではありません。とくに重要なのが「肥料をどれだけ、いつ与えたか」という点です。日照不足は、肥料から吸収した硝酸態窒素が野菜の中に蓄積することをさらに促す要因の一つと考えられています。季節をずらしてハウス栽培された野菜では、日照不足と肥料の与え方という条件が重なることで、硝酸態窒素が多くなりやすい傾向があります。
| 育て方の条件 | 硝酸態窒素の溜まりやすさ |
| 旬の時期・屋外で十分な日照 | 溜まりにくい |
| 季節外れ・ハウス栽培で日照不足 | 溜まりやすい |
| 肥料の量が適正 | 溜まりにくい |
| 肥料(とくに窒素分)が多い・時期が不適切 | 溜まりやすい |
【出典】農研機構(コマツナと光条件) 農研機構「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」
硝酸態窒素を減らすために今日からできる選び方・食べ方
旬の野菜を選ぶことが、硝酸態窒素を減らす近道
旬の野菜は、屋外で十分な太陽光を浴びて育つため、硝酸態窒素が蓄積しにくい傾向があります。ホウレン草や小松菜、チンゲン菜などの葉物野菜を対象とした調査でも、季節によって硝酸態窒素の含有量に違いが見られることが報告されています。硝酸態窒素をできるだけ抑えたい場合は、まず「旬の野菜を選ぶ」ことを意識してみましょう。
野菜を茹でて、茹で汁を捨てると効率よく減らせる
硝酸態窒素は水に溶けやすいため、調理方法によっても減らすことができます。ホウレン草や小松菜などの葉物野菜は、たっぷりのお湯で3分ほど茹でることで、生の状態と比べて硝酸イオンの量を約4〜5割減らせることが実験で確認されています。溶け出した硝酸イオンの大部分は茹で汁に移るため、茹でた後に茹で汁を捨てることで、効率よく減らせます。季節外れの野菜を使うときや、硝酸態窒素の量が気になる場合は、このひと手間を取り入れてみましょう。
| 状態 | 硝酸イオンの量(生を100とした目安) |
| 生のまま | 100 |
| たっぷりの湯で3分茹で、汁を捨てた後 | 約54〜60 |
【出典】農研機構(旬と硝酸含量の関係) 国立国会図書館「葉菜中硝酸イオンの低減化法」
知っておきたい、野菜選びのよくある誤解
「有機野菜だから硝酸態窒素が少ない」とは限らない
「有機野菜なら硝酸態窒素が少ない」と考える方もいますが、必ずしもそうとは限りません。硝酸態窒素の量を左右するのは、化学肥料か有機肥料かという「種類」だけではなく、肥料をどれくらい与えたかという「量」です。有機肥料でも、窒素を多く含む堆肥を過剰に施せば、通常の栽培と同程度、場合によってはそれ以上に硝酸態窒素が増えることがあります。市販の野菜ジュースを有機栽培と通常栽培で比較した調査でも、大きな差は確認されませんでした。栽培方法の名称だけで判断するのではなく、まずは「旬の野菜を選ぶ」ことを意識しましょう。
硝酸態窒素は外側の葉より内側、軸より葉の部分が少なめ
同じ野菜でも、部位によって硝酸態窒素の含有量には違いがあります。レタスや小松菜などの葉物野菜では、外側の葉は内側の葉より硝酸態窒素が多く、葉の軸(葉柄)も葉の部分(葉身)より多くなる傾向が報告されています。量が気になる場合は、外側の葉を少し取り除いて内側の葉を中心に使う、軸を減らして葉の部分を多めに使うなど、部位を選ぶ工夫もできます。
【出典】BSI生物科学研究所(肥料と硝酸態窒素) 農研機構(部位別の分布)
赤ちゃんの離乳食では、もうひと工夫を
赤ちゃんは硝酸態窒素の影響を受けやすい
硝酸態窒素は、体内で「亜硝酸塩」に変化することがあります。亜硝酸塩には、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンを、酸素を運びにくい「メトヘモグロビン」に変える作用があり、この状態を「メトヘモグロビン血症」と呼びます。赤ちゃんは大人に比べて、この反応が起こりやすいとされています。過去には、硝酸態窒素を多く含む井戸水で溶いた粉ミルクや、調理後に時間が経ったホウレン草などが原因となった例も報告されています。こうした経験を踏まえ、粉ミルクに使う水の管理や、離乳食での葉物野菜の調理・保存方法が見直されてきました。
旬の野菜選び+「煮こぼし」をセットで行う
赤ちゃんの離乳食では、できるだけ硝酸態窒素の摂取量を抑えられるよう、野菜の選び方や調理方法を工夫することが大切です。具体的には、旬の野菜を選ぶこと、葉物野菜は色の薄い部分を使うこと、そして下茹でした後に茹で汁を捨てる「煮こぼし」を行うことがポイントです。さらに、作り置きを避け、調理した離乳食はできるだけ早く使い切ることも、亜硝酸塩の増加を抑えるうえで役立ちます。
| 場面 | 気をつけたいポイント |
| 野菜選び | 旬のものを選ぶ/色の薄い葉の部分を使う |
| 調理 | 下茹でしたあと、茹で汁は使わずに捨てる(煮こぼし) |
| 保存 | 作り置きを避け、調理したものは早めに使い切る |
| ミルク用の水 | 水質が気になる場合は購入元や保健師等に確認する |
【出典】Dartmouth Medicine(赤ちゃんとメトヘモグロビン血症)
硝酸態窒素の摂取量の目安と、世界の考え方
「一生涯、毎日摂取しても健康への影響がない」とされる目安がある
硝酸態窒素には、生涯にわたって毎日摂取しても健康への影響がないとされる摂取量の目安「一日摂取許容量(ADI)」が、国際的な専門機関によって設定されています。硝酸イオンとして、体重1kgあたり0〜3.7mgが目安とされており、体重60kgの成人なら1日あたり約222mgに相当します。日々の硝酸態窒素の摂取量を考える際の、一つの基準として利用できます。ただし、生後3か月未満の赤ちゃんには、このADIをそのまま当てはめることはできません。
| 体重の目安 | 1日あたりの摂取目安(硝酸イオン換算) |
| 10kg(乳幼児の目安) | 0〜37mg |
| 30kg(小学生の目安) | 0〜111mg |
| 60kg(成人の目安) | 0〜222mg |
| 80kg(成人の目安) | 0〜296mg |
硝酸態窒素への対策は、国によって重点が異なる
ヨーロッパ(EU)では、季節や栽培方法に応じて、ホウレン草・レタス・ルッコラの3品目に硝酸塩の残留基準値が設定されています。日本の生産者がこれらの野菜をEUへ輸出する場合も、基準値を満たしているか確認したうえで出荷されます。一方、日本には野菜に含まれる硝酸態窒素の法的な基準値はなく、肥料の適正な使用や品種選びなど、栽培段階で硝酸態窒素を減らす技術の普及に重点が置かれています。私たち消費者ができる対策としては、旬の野菜を選び、茹でて茹で汁を捨てるなど、日々の調理で摂取量を抑える工夫が実践しやすいでしょう。
| 重点の置き方 | |
| EU | EU スーパーで販売される野菜そのものに、品目ごとの残留基準値を設定 |
| 日本 | 日本 生産者向けに、栽培段階(肥料管理・品種選び)での低減技術を推進 |
| 消費者にできること | 旬の野菜を選ぶ/茹でて茹で汁を捨てる |
【出典】JECFA, WHO Food Additives Series 50 EUR-Lex 農研機構「野菜の硝酸イオン低減化マニュアル」
よくある質問(Q&A)
硝酸態窒素が多い野菜は、食べない方がいいですか?
硝酸態窒素が多いという理由だけで、野菜を避ける必要はありません。旬の野菜を選び、茹でて茹で汁を捨てる調理法を取り入れることで、摂取量を抑えることができます。季節外れに育てられた野菜は、日照不足や肥料の量などの影響で硝酸態窒素が多くなりやすい傾向がありますが、旬の野菜を選ぶことと、茹でて茹で汁を捨てる工夫を組み合わせれば、日々の摂取量を効率よく抑えられます。
硝酸態窒素の目安量を少しでも超えたら、すぐに危険なのですか?
国際的な専門機関が示す摂取量の目安「一日摂取許容量(ADI)」は、生涯にわたって毎日摂取しても健康への影響がないとされる水準です。そのため、少し超えたら直ちに危険になるという意味ではなく、日々の摂取量を考える際の目安として利用します。ADIは硝酸イオンとして体重1kgあたり0〜3.7mgです。旬の野菜を選び、茹でるなどの工夫を習慣にして、摂取量を無理なくコントロールしていきましょう。
赤ちゃんの離乳食に葉物野菜を使うときは、何に気をつければいいですか?
離乳食では、旬の野菜を選び、茹でて茹で汁を捨てる「煮こぼし」を行うことをおすすめします。赤ちゃんは大人よりメトヘモグロビン血症(血液が酸素を運びにくくなる状態)を起こしやすいとされているため、葉物野菜は色の薄い部分を選び、下茹でした後の茹で汁は使わないようにしましょう。また、作り置きを避け、調理したものはできるだけ早く使い切ることも意識してください。
ハムやベーコンに使われる硝酸塩・亜硝酸塩も注意が必要ですか?
野菜に自然に含まれる硝酸態窒素と、食品添加物として使用される亜硝酸塩は、同じものではありません。ハムやベーコンなどの加工肉では、色を保つ発色剤として亜硝酸塩が使用されており、使用できる量には基準が定められています。一方、野菜に含まれる硝酸態窒素は、体内に入った後、一部が亜硝酸塩に変化します。いずれも摂りすぎに注意することは大切ですが、野菜については旬のものを選び、茹でて茹で汁を捨てるなど、日々の選び方や調理法で摂取量を抑えることができます。
【出典】厚生労働省(添加物の使用基準)
まとめ:硝酸態窒素は「旬選び」と「茹でこぼし」でムリなく減らせる
ここまで、硝酸態窒素が野菜に含まれる理由や、摂取量を抑えるための選び方・調理法について解説してきました。ポイントを振り返りましょう。
- 硝酸態窒素は野菜にもともと含まれる自然な成分で、汚染物質ではありません。含まれる量は、野菜の種類や栽培環境、肥料の与え方などによって変わります。
- 硝酸態窒素を減らすには、「旬の野菜を選ぶ」「茹でて茹で汁を捨てる」という2つの工夫が効果的です。
- 「有機野菜」という名称だけで、硝酸態窒素が少ないとは限りません。肥料の種類だけでなく、与える量なども含有量に影響します。
- 赤ちゃんの離乳食では、旬の野菜を選び、茹で汁を捨てる「煮こぼし」を行うなど、より丁寧な工夫が大切です。
- 国際的な専門機関が示す摂取量の目安(ADI)もあります。目安を踏まえながら、日々の野菜選びや調理法を工夫することで、硝酸態窒素の摂取量を無理なくコントロールできます。
硝酸態窒素が気になるからといって、野菜そのものを避ける必要はありません。旬の野菜を選び、茹でるなどのひと手間を取り入れながら、野菜を取り入れた食生活を無理なく続けていきましょう。
※本記事は研究内容を一般向けに紹介するものであり、特定の商品による健康効果を示すものではありません。研究対象・摂取量・条件は、通常の食生活とは異なる場合があります。
岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。腸内細菌や発酵食品の研究者として国内外で論文を多数発表。腸の健康や食に関する講演・セミナー、メディアへの寄稿など幅広く活動中。著書に『「腸内酵素力」で、ボケもがんも寄りつかない』(講談社)など。

