コラム

トランス脂肪酸はなぜ危険?世界で規制が進むのに日本で緩い理由

マーガリンやショートニングに多く含まれる「トランス脂肪酸」は、世界保健機関(WHO)が排除を呼びかけている脂肪酸の一種です。海外では使用や含有量を制限する国が増えている一方、日本では表示義務も含有量規制もなく、消費者が自分で情報を確認するしかないのが実情です。この記事では、トランス脂肪酸のリスクと、日本と海外の規制の違い、日々の食事でできる工夫を解説します。

トランス脂肪酸とは?なぜ体に悪いと言われるの?

トランス脂肪酸はどんな食品に含まれているのか

トランス脂肪酸とは、トランス型二重結合という特有の構造をもつ不飽和脂肪酸の総称です。マーガリンやショートニングのように、植物油に水素を加えて固形化する「水素添加」という加工工程でできる工業由来のものと、牛や羊など反芻動物の胃の中で微生物によって作られ、牛肉や乳製品にわずかに含まれる天然由来のものの2種類があります。

 

農林水産省の調査によると、トランス脂肪酸の濃度が特に高いのはショートニング(食品100gあたり平均13.6g)やマーガリン(平均7.0g)など油脂そのもので、次いでビスケット類やケーキ・ペストリー類、マヨネーズ、クロワッサンなど脂質の多い加工食品が続きます。牛肉の中でも脂の多い部位に天然由来のトランス脂肪酸が比較的多く含まれることも分かっています。ただし、日本国内メーカーの多くは近年含有量の低減に取り組んでいるため、含有量は調査ごとに減少傾向にあります。

なお、肉の食べ過ぎに関連する記事は「肉の食べ過ぎは危険?WHOも指摘するがん・糖尿病リスクとマクガバン報告の真実」もご覧ください。

【参考文献】農林水産省「食品に含まれるトランス脂肪酸の由来」 農林水産省調査「平成18・19年度調査結果」 食品安全委員会ファクトシート「トランス脂肪酸」

少量の摂取でも健康リスクが高まるのはなぜ?

トランス脂肪酸を多く摂ると、LDL(悪玉)コレステロールが増え、HDL(善玉)コレステロールが減ることが分かっています。この変化は心血管系疾患のリスクを高める指標として広く認められています。トランス脂肪酸の多い食事は心疾患リスクを21%、死亡リスクを28%増加させるという報告もあります。

WHOは、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう勧告しています(1日2,000kcalの食事なら約2.2g未満)。世界全体では、工業由来のトランス脂肪酸の摂取が原因で毎年27.8万人以上が死亡していると推計されており、その多くはアフリカやアジア太平洋地域の一部の国に集中していると報告されています。

【参考文献】国立医薬品食品衛生研究所「食品中のトランス脂肪酸について」 WHO「Trans fat」 日本WHO協会「トランス脂肪酸」

世界で毎年25万人以上が死亡?トランス脂肪酸のリスクとは

心臓疾患や突然死のリスクが高まる仕組みとは

トランス脂肪酸のリスクが強調される背景には、WHOによる継続的な注意喚起があります。WHOは2018年、トランス脂肪酸を「不必要な有毒化学物質」と表現し、2023年までに世界の食品から工業由来のトランス脂肪酸を排除する目標を発表しました。その後の推計では、毎年27.8万人以上の早期死亡が工業由来トランス脂肪酸の摂取に起因する可能性があるとされています。トランス脂肪酸の摂取が多いと血中の脂質バランスが乱れ、動脈硬化のリスクにつながる血管の炎症や内皮機能の低下につながる可能性があると指摘されています。

腸内細菌自体がトランス脂肪酸を作り出すこともある

トランス脂肪酸は食品からとり込むものだけではありません。理化学研究所の研究チームは、腸内に「Fusimonas intestini(FI菌)」という細菌が多い人ほど、肥満や高血糖になりやすいことを報告しています。肥満・糖尿病の患者34人と健常な人34人の便を比較したところ、FI菌を持つ人の割合は糖尿病患者で70.6%、健常な人で38.2%と、約2倍の差がありました。

マウスを使った実験では、高脂肪の食事を与えた場合に限り、FI菌が食事中の脂肪酸(オレイン酸など)を材料として、トランス脂肪酸の一種「エライジン酸」を腸内で作り出すことが確認されました。つまり高脂肪の食事を続けると、腸内細菌そのものが体の中でトランス脂肪酸を追加で生み出してしまう可能性があるのです。

【参考文献】理化学研究所「悪玉脂質を産生する腸内細菌が肥満を悪化させる」

なぜ日本ではトランス脂肪酸が規制されないのか?

欧米ではすでに使用が制限・禁止されている理由

デンマークは2004年、世界に先駆けて加工食品の油脂中のトランス脂肪酸含有率を2%以下に制限する規制を導入しました。その後、スイスやオーストリア、アイスランドなど欧州各国が同様の規制を続けました。アメリカでは2006年から含有量の表示が義務化され、2018年には工業由来トランス脂肪酸の主な原因となる部分水素添加油の使用が原則禁止となっています。カナダや韓国でも表示義務化が進んでおり、欧米や近隣諸国では規制の動きが先行しています。

【参考文献】農林水産省「トランス脂肪酸に関する各国・地域の規制状況」 参議院「トランス脂肪酸に関する情報発信と含有量表示等に関する質問主意書」

日本の規制がゆるいと言われる理由と対策の現状

日本には、トランス脂肪酸の含有量規制や表示義務はありません。これは、内閣府食品安全委員会が2012年にまとめた評価で「日本人の平均的な摂取量は総エネルギー摂取量の約0.3%とWHOの目標である1%未満を下回っており、通常の食生活では健康への影響は小さい」と結論づけたことが背景にあります。

農林水産省も継続的に食品中の含有量調査を行い、国内メーカーの自主的な低減の取り組みを促してきました。

つまり日本の対応は「元々摂取量が少ないため一律の規制は必要ないが、動向は監視する」という考え方に基づいたものであり、規制の有無だけで安全性の高低を単純に判断できるものではありません。とはいえ、脂質に偏った食事を続けている人は摂取量が目標を超える可能性もあるため、一人ひとりの食生活には注意が必要です。

【参考文献】食品安全委員会「トランス脂肪酸〜リスク評価の意味を知ってほしい〜」 農林水産省「トランス脂肪酸に関する調査結果」

トランス脂肪酸を減らすために今日からできることは?

加工食品・洋菓子・揚げ物を選ぶときの注意点

トランス脂肪酸を減らす基本は、原材料表示を確認する習慣です。「マーガリン」「ショートニング」「加工油脂」「植物油脂」といった表記が上位にある食品は、トランス脂肪酸を含む可能性が比較的高い油脂が使われていることがあります。揚げ物やケーキ、クッキーなど油脂を多く使う食品を毎日大量に食べる習慣がある場合は、量や頻度を見直すことが摂取量を抑える一歩になります。

摂取してしまった場合、体への影響を抑える食生活の工夫はあるのか

トランス脂肪酸を摂り過ぎたと感じても、特定の食品を食べればすぐに打ち消せるという医学的根拠はありません。基本になるのは、脂質全体のバランスを見直すことです。トランス脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えることで、血中脂質への悪影響がある程度抑制されるとされています。魚や植物油に含まれる不飽和脂肪酸を意識的に取り入れ、全体としての脂質バランスを整えることが日常生活でできる対策です。

トランス脂肪酸を体から排出する方法はあるのか

トランス脂肪酸が、体内に特有の経路で蓄積されるわけではなく、他の脂肪酸と同じ代謝経路をたどって最終的にエネルギー源として使われることが、食品安全委員会の評価で示されています。特定の食品や方法で体外へ「排出」を早められるという医学的な根拠は確認されていません。摂取量そのものを抑えるバランスの良い食生活を続けることが、結果的に体への負担を軽くする一番の方法といえます。

腸内環境を整える食生活がトランス脂肪酸対策にもなる理由

腸のバリア機能が崩れると体への影響が増幅される仕組みとは

先ほどご紹介した「Fusimonas intestini(FI菌)」が作り出すエライジン酸は、腸のバリア機能にも影響します。理化学研究所の研究では、FI菌を持つマウスに高脂肪食を与えると、腸の細胞をつなぐタイトジャンクション関連遺伝子の働きが低下し、腸のバリア機能が弱まることが確認されました。さらに、エライジン酸を投与すると、体重増加や血糖値の悪化もみられました。総説でも、エライジン酸によるタイトジャンクション障害が慢性炎症につながる可能性が指摘されています。つまり、腸のバリア機能が、トランス脂肪酸の影響を左右する可能性があります。

【参考文献】臨床雑誌内科2024, 134:598-602

発酵食品や和食中心の食生活が腸内環境を整えるうえで役立つ理由

高脂肪の食事に偏った生活を見直し、腸内細菌のバランスを整えることは、FI菌のようなトランス脂肪酸を作り出す菌を増やしにくい食生活につながると考えられます。味噌や納豆、漬物といった発酵食品には、乳酸菌やビフィズス菌など腸内の善玉菌そのもの、またその働きを助ける成分が含まれています。全粒穀物や野菜、果物を中心とした食事は、精製された小麦や脂肪の多い食品に偏った食事と比べ、食物繊維を多く含み、腸内細菌が短鎖脂肪酸を作る材料にもなります。

京都府立医科大学の研究グループによる報告では、日本食摂取頻度が高い長寿地域の住民ほど、酪酸など短鎖脂肪酸を作る腸内細菌の占有率が高いことが示されており、脂質に偏りやすい食生活を見直し、和食的な要素を取り入れることは、トランス脂肪酸を減らす工夫と同時に、腸内環境そのものを整えるうえでも一つの選択肢になります。

【参考文献】臨床栄養 2023, 142:976-982

よくある質問(FAQ)

トランス脂肪酸が少ない食品を選ぶには何を目安にすればいいですか?

パッケージの原材料表示で「マーガリン」「ショートニング」「加工油脂」「植物油脂」といった記載が少ないものを選ぶのが一つの目安です。特定の商品名を挙げて安全性を断定することはできないため、原材料表示を確認する習慣をつけることをおすすめします。

マーガリンは種類によってトランス脂肪酸の量が違いますか?

近年、国内の油脂メーカーの多くはトランス脂肪酸の低減化に取り組んでおり、以前と比べて含有量は大きく減少している製品が多いとされています。ただし製品ごとの正確な含有量は、各メーカーの公表情報を確認することをおすすめします。

天然の食品にもトランス脂肪酸は含まれていますか?

牛肉や乳製品などの動物性食品には、天然由来のトランス脂肪酸がわずかに含まれています。ただし、加工・精製の過程で生成される工業由来のトランス脂肪酸とは性質が異なるとされており、健康への影響については研究が続けられています。

トランス脂肪酸をとりすぎた場合、体から排出する方法はありますか?

特定の食品や方法で「排出できる」と断定できる医学的根拠は確認できていません。バランスの良い食生活を続けることで摂取量を抑えていくことが基本的な考え方です。持病がある場合や心配な症状がある場合は、医療機関に相談することをおすすめします。

まとめ:トランス脂肪酸は「知って選ぶ」ことが自己防衛の第一歩

トランス脂肪酸は、摂取量をできるだけ抑えながら、日々の食生活全体を見直すことが大切です。

  • トランス脂肪酸には工業由来と天然由来があり、マーガリンやショートニング、洋菓子、揚げ物などに含まれています。
  • 過剰な摂取は、LDLコレステロールの増加やHDLコレステロールの低下を通じて、心血管疾患のリスクにつながることが知られています。
  • 日本では含有量規制や表示義務はありませんが、平均的な摂取量がWHOの目標を下回っていることなどが背景にあります。
  • 特定の食品でトランス脂肪酸を「排出」できるという根拠はないため、摂取量そのものを減らすことが基本です。
  • 原材料表示を確認し、不飽和脂肪酸を含む食品や発酵食品、野菜・果物・全粒穀物などを取り入れ、脂質に偏らない食生活を心がけることが大切です。

トランス脂肪酸だけを過度に恐れるのではなく、脂質の質と食生活全体に目を向け、「知って選ぶ」ことが健康を守るための第一歩になります。

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