糖尿病の食事では、血糖値を意識して糖質を控えるだけでなく、脂質・たんぱく質・塩分・カリウムの摂り方にも注意が必要です。主食を減らして肉や魚を増やす食べ方が、必ずしも健康によいとは限りません。脂質の質や腎機能に応じたたんぱく質・カリウムの調整、減塩のポイントを知ることは、合併症の予防や健康管理にもつながります。この記事では農学博士の監修の元、糖尿病の食事で気をつけたい栄養素と食品の選び方を、ガイドラインや研究報告を参照してわかりやすく解説します。
糖尿病の食事は糖質だけ減らせばいい?
長期にわたって炭水化物(糖質)を制限する食事に要注意
短期的に糖質を制限することは、糖尿病の対策として有効です。ただし、長期にわたって主食を一律に減らし続ける方法はおすすめできません。日本糖尿病学会によると、炭水化物制限は2型糖尿病の短期的な血糖管理に有効な場合がありますが、12〜24か月以降の効果は制限しない食事と同程度で変わらないという報告もあります。総エネルギー量を調整せず、糖質だけ極端に減らす食事は、長期的な有効性と安全性が十分に確認されていません。
【参考文献】糖尿病診療ガイドライン2024
糖質・脂質・たんぱく質の適切な割合
万人に共通する「最適な割合」はありません。身体活動量、体格、治療内容、腎機能などに応じて調整します。日本糖尿病学会のガイドラインに示された配分の目安は次のとおりです。
| 栄養素 | エネルギー比の目安 |
| 炭水化物 | 50〜60%(食物繊維を意識) |
| たんぱく質 | 20%まで |
| 脂質 | 残り。25%を超える場合は飽和脂肪酸を減らすなど脂肪酸組成に配慮 |
これは過去のガイドに示された参考値であり、現在のすべての患者に一律に適用する基準ではありません。具体的な摂取量は医療従事者と相談して決めましょう。
【参考文献】日本糖尿病学会「糖尿病治療ガイド2018-2019」
糖尿病でも肉を食べていい?飽和脂肪酸と心臓病の関係
糖尿病の人は肉の種類と量を工夫する
糖尿病だからといって肉を一律禁止する必要はありません。脂身の少ない肉や鶏肉を選ぶようにし、魚、大豆製品を組み合わせましょう。ただし、国立がん研究センターの研究では、男性で肉類の摂取が多い群に糖尿病発症リスクの上昇がみられました(最多群と最少群の比較で1.36倍)。女性では同様の関連は確認されていません。
また、ハムやソーセージなどの加工肉は、IARC(国際がん研究機関)が発がん性を認める分類に位置づけています。摂取頻度と量に配慮しましょう。
なお、肉類の適切な摂取量については【記事:肉の食べ過ぎは危険?WHOも指摘するがん・糖尿病リスクとマクガバン報告の真実】も合わせてご一読ください。
【参考文献】国立がん研究センター「肉類摂取と糖尿病の関連について」 WHO IRAC
糖尿病では心筋梗塞や動脈硬化などのリスクも高まる
約70万人を対象とした102研究の統合解析では、糖尿病のある人の冠動脈疾患リスクは、ない人の約2倍でした。動脈硬化とは、血管が硬く狭くなる状態のことです。ガイドラインによると、動脈硬化は長い年月をかけて進み、糖尿病の診断前の耐糖能異常(血糖が高めの状態)やインスリン抵抗性の段階から、心血管イベントのリスクは上がり始めます。血糖だけでなく、血圧や脂質も早い段階から整えることが大切です。
【参考文献】Lancet. 2010,375:2215-2222
飽和脂肪酸に要注意!総エネルギーの7%以下が目標
飽和脂肪酸とは、肉の脂や乳製品、バターに多く含まれる脂質で、とりすぎると血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が上がりやすくなります。厚生労働省は、適正なエネルギーの範囲で飽和脂肪酸を控えると、動脈硬化性疾患のリスクを下げられると説明しています。
食事摂取基準(2025年版)の目標量は、18歳以上で総エネルギーの7%以下です。一方で、実生活においては令和5年の国民健康・栄養調査の平均は、20歳以上で8.3%でした。
飽和脂肪酸を控えると、残るのは、たんぱく質と、魚や植物油などに多い不飽和脂肪酸でできた脂質です。バターやラードを控え、魚や大豆製品、菜種油やオリーブオイルなどで補う形が現実的でしょう。
【参考文献】e-ヘルスネット「脂質異常症の食事」 農林水産省「脂質のとりすぎに注意」
高たんぱく質・低炭水化物食は糖尿病に向いている?
たんぱく質は多ければよいわけではない
高たんぱく質食(ハイプロテインダイエット)の定義は研究によって異なり、総エネルギーの25〜35%などが用いられます。日本の食事摂取基準では、成人の目標範囲は原則13〜20%、65歳以上では15〜20%です。
約1万5千人を25年間追跡した研究では、炭水化物を動物性脂肪・たんぱく質に置き換えた人で死亡リスクが高く、植物由来の食品に置き換えた人では低い傾向がみられました。観察研究であり因果関係は確定しませんが、糖質の量だけでなく置き換える食品の質が重要と考えられます。
【参考文献】Diabetes Obes Metab. 2026,28:7672-7683 Lancet Public Health. 2018,3:e419-428
高たんぱく質食は腎臓に負担をかける?

たんぱく質の代謝で生じる老廃物は腎臓から排出されます。腎疾患のない成人を対象とした28試験(計1,358人)の解析では、高たんぱく質食による腎機能悪化は明確には示されませんでした。ただし高たんぱく質食の長期的な安全性は不明です。また、腎臓に直接の影響が少なくとも、たんぱく質が過剰な食事の場合、腸内の悪玉菌によって利用されて腐敗物質(p-クレゾールやインドキシル硫酸など)が作り出されます。こうした毒素は、腸から吸収されて腎機能に影響を与える恐れがあります。
糖尿病や腎機能低下がある方は、自己判断で高たんぱく質食を始めないでください。
【参考文献】J Nutr. 2010, 148:1760-1775
塩分とカリウムはどれくらいとればいい?
食塩摂取量は減っているのに、なぜ目標量を超えている?

日本人の食塩摂取量は、1975年の1日14.0gから令和6年には9.6gへと減少しました。一方、エネルギー摂取量も2,188kcalから約1,859kcalに減っています。エネルギー1,000kcalあたりの食塩量は約6.4gから5.1gへと減少しており、食塩摂取量そのものの減少率(約3割)より小さくなっています。
食塩の1日の目安は、食事摂取基準(2025年版)で男性7.5g未満、女性6.5g未満です。また、高血圧や慢性腎臓病の重症化予防では男女とも6.0g未満です。令和6年の平均は男性10.5g、女性8.9gで、依然として目標を上回っており、減塩が必要です。
【参考文献】厚生労働省「栄養素等摂取量の年次推移」 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査結果の概要」
カリウムは血圧対策に役立つ?腎機能が低下している人は注意
カリウムは、ナトリウムの排出を助け、血圧を下げる方向に働きます。メタ解析では、カリウム摂取量を増やすことで血圧が低下し、脳卒中リスクも24%低いことが報告されています。1日の目標量は男性3,000mg以上、女性2,600mg以上ですが、令和6年の平均摂取量は男性2,351mg、女性2,167mgと不足しています。健康な人は、野菜や果物、豆類などから摂取しましょう。
ただし、腎機能が低下していると、カリウムが体内に蓄積するおそれがあります。カリウム制限を指示されている人や、血清カリウム値が上がりやすい薬を使用している人は、摂取量を増やす前に主治医に相談してください。
【参考文献】BMJ 2013,346:f1378 CKD診療ガイドライン2024「成人CKD患者への栄養管理」
カリウムを意識した野菜を食べる際の調理の工夫
カリウムが不足する大きな理由は、野菜の量が目安に足りないことです。令和6年の20歳以上の野菜摂取量は平均258.7gで、1日350g以上という目安を下回っています。
もう一つは調理と精製です。カリウムは水に溶けやすく、ゆでると減ります。主食も精白すると少なくなります。
| 食品(可食部100gあたり) | カリウム |
| ほうれんそう(生) | 690mg |
| ほうれんそう(ゆで) | 490mg |
| 玄米 | 230mg |
| 精白米 | 89mg |
蒸す、電子レンジで加熱する、汁ごと食べる料理にするなどの工夫で、溶け出す量を減らせます。果物もカリウムの供給源ですが、糖分が多いため、糖尿病の方は量を主治医や管理栄養士に確認しましょう。ただし、腎臓病でカリウム制限のある方は、指示された調理法を優先してください。
朝の味噌汁は体にいい?野菜たっぷりの汁物と朝食のとり方
塩分が気になる人の飲み方
味噌汁は、飲み方を工夫すれば毎日の食事に取り入れられます。ただし、汁も含めて塩分の摂取源になるため、飲み方に工夫が必要です。1990年代後半の日本人を対象とした調査では、味噌汁が食塩摂取量全体の9.7%を占めていました。
厚生労働省の資料では、具だくさんにして汁の量を減らすことがすすめられています。糖尿病や慢性腎臓病の人は、1日6g未満の減塩が推奨されており、みそ汁は1日1杯以内が目安とされています。
具の野菜はカリウムの供給源になり、具だくさんの味噌汁1皿で約330mgです。ただし、野菜が塩分を打ち消してくれるわけではありません。汁を残す、具を増やすといった工夫で、塩分を抑えましょう。腎臓病の方は、具の種類も主治医に確認してください。
【参考文献】日本高血圧学会「減塩・増カリウム情報POP」 厚生労働省「ナトカリ手帳」
朝食を食べると肥満を防ぎやすい?

朝食と肥満の関係は、研究によって結果が分かれています。観察研究では、朝食を抜く人で2型糖尿病の発症が多い傾向があります。愛知職域コホート(4,631人、中央値8.9年)では、朝食欠食者の発症は1.73倍でした。6つのコホート研究(約9万6千人)を統合した解析でも、朝食欠食は2型糖尿病のリスク上昇と関連していました。
一方、朝食を追加する介入試験13件の解析では、朝食を食べた群のほうが1日のエネルギー摂取が約260kcal多く、体重も平均0.44kg多い結果でした。つまり、朝食を単純に増やすのではなく、朝食を増やしたら夕食を少なめにするなど、食べる時間と1日の総摂取量に気を付ける必要があります。
食事の時間を整える目的で、朝に味噌汁などを取り入れるのは良い方法です。インスリンや血糖降下薬を使っている方は、食事を抜く前に主治医へ相談してください。
【参考文献】J Epidemiol. 2015,25:351-358 J Nutr. 2019,149:106-113 BMJ. 2019,364:I42
よくある質問(FAQ)
糖尿病の食事に、ごぼう・こんにゃく・納豆など「よい」とされる食品はありますか?
食物繊維を含む野菜、豆類、きのこ、海藻などは、食事を整えるうえで役立ちます。ただし、特定の食品だけで血糖値や合併症が改善するわけではありません。主食・主菜・副菜をそろえ、多様な食品を取り入れましょう。
糖尿病の食事は、1日何食で、どのように配分するのが基本ですか?
朝・昼・夕の3食を規則正しくとり、食事量が偏らないようにすることが基本です。朝食欠食は2型糖尿病の発症と関連するという報告もあります。適切な食事量や間食は、主治医や管理栄養士に相談しましょう。
糖尿病の薬を飲んでいるときに、食事がとれない場合はどうすればいいですか?
インスリンや一部の血糖降下薬では、食事がとれないと低血糖のリスクがあります。自己判断で薬の量を変更せず、体調不良時の対応を主治医と事前に確認しておきましょう。
糖尿病の方は、食事の宅配サービスやコンビニ食品を利用してもいいですか?
利用できますが、栄養成分表示でエネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、食塩相当量を確認し、主食・主菜・副菜を組み合わせて選びましょう。腎臓病や高血圧がある場合は、主治医や管理栄養士に相談してください。
まとめ:糖尿病の食事は栄養バランスと合併症対策が重要
糖尿病の食事では、糖質だけでなく、脂質・たんぱく質・塩分・カリウムにも目を向けることが大切です。
- 栄養バランスを整える: 主食を極端に減らさず、主食・主菜・副菜を組み合わせましょう。
- 脂質の質を意識する: 脂身の多い肉や加工肉を控え、魚や大豆製品、不飽和脂肪酸を含む植物油を活用しましょう。
- 腎機能に応じて調整する: たんぱく質やカリウムの適切な摂取量は、腎臓の状態によって異なります。
- 減塩と食習慣を見直す: 塩分を控え、野菜などからカリウムを摂りながら、規則正しい食事を心がけましょう。
持病や服薬の状況に合わせ、主治医や管理栄養士と相談しながら、自分に合った食事を続けましょう。

岡山大学大学院にて博士号(農学)を取得。腸内細菌や発酵食品の研究者として国内外で論文を多数発表。腸の健康や食に関する講演・セミナー、メディアへの寄稿など幅広く活動中。著書に『「腸内酵素力」で、ボケもがんも寄りつかない』(講談社)など。
