コラム

疫学調査から見る現代の病気の変化

現代社会において、私たちは膨大な健康情報に囲まれています。

巷で飛び交う健康情報のなかで、一体どこまでが本当で、どこまでが真実味のあるものなのでしょうか。

『健康な人の小さな習慣』の著者である大平哲也医師は、メディアで突発的に現れる流行の健康法に一喜一憂するのではなく、長い歴史と膨大なデータに基づいた「疫学」の視点から学ぶことの重要性を強調しています。

疫学が提供する最強のエビデンス

疫学とは、特定の集団を対象として、病気の原因やその本態を究明する医学の一分野です。
誰が、いつ、どこで、どのようなパターンで健康を損ねているのか、その決定要因を研究する学問です。

大阪国際がんセンターを主体とした「SIRCS(サークス)」という疫学研究では、大阪府や秋田県、茨城県、高知県など複数の地域の協力を得て、60年以上にわたる追跡調査が行われてきました。

ここで重要なのは、疫学が扱うデータは単なる「過去の古い記録」ではないという点です。

調査期間が長く、対象人数が多いほど、その知見は確実なものとして蓄積されていきます。60年間積み重ねられてきたデータこそが、私たちが健康になるための「最強のエビデンス」といえるのです。

地域差から見えた高血圧の正体

この疫学の視点から、現代の大きな健康課題である「高血圧」について深掘りしてみましょう。

職場や地域での健康診断は、今や誰もが当たり前に行う習慣となりましたが、国による制度として定着したのは1982年に老人保健法が制定されてからです。

現代では定期検診によって病気の早期発見と治療が容易になりましたが、60年ほど前の秋田県では壮年期の脳卒中が多発し、非常に深刻な社会問題となっていました。

当時の調査では、血圧や心電図、肥満度、さらには食生活についてまで徹底した聞き取りが行われました。

その結果、秋田県では圧倒的に高血圧の人が多いことが判明したのです。

特に塩や醤油、味噌といった調味料の消費量は、大阪の2倍近くに達していました。

東北地方には、冬を乗り切るために塩を多用して保存する食文化がありますが、それにより高血圧のリスクが高まっていたことが特定され、減塩という明確な改善策が見出されたのです。

健康を左右する三大リスクと食事の真実

現在、多くの人が「認知症」「脳卒中」「骨折・転倒」を恐れていますが、特に認知症と脳卒中に関しては、高血圧との関連が極めて強く、注意が必要です。

血圧が下がるにつれて脳卒中による死亡率も低下する傾向がはっきりと見て取れます。

また、血管性認知症は脳卒中による血流停滞が直接の原因であり、高血圧から脳卒中、そして認知症へと繋がってしまう危険な構図が存在するのです。

脂質の摂取過多は認知症リスクを2.4倍に引き上げる一方、魚由来の脂肪摂取はリスクを0.4倍に下げるとされています。

さらに、えごま油やアマニ油に含まれるαリノレン酸は、認知症の発症率を3分の2まで抑制できる可能性があるとの研究もあるほか、大豆製品のイソフラボンも予防に役立ちます。

日本食を中心にしつつ、カルシウムも摂取する

私たちは食材としてバランスの良い食事、特に日本食を意識的に摂ることを心がけるべきですが、日本食には「塩分摂取量が多く、カルシウム摂取量が少ない」という欠点があることも忘れてはなりません。

海藻や豆腐のマグネシウムは豊富でも、不足しがちなカルシウムを補うことが、血圧を安定させ、脳卒中を防ぐ鍵となるのです。

ヨーグルト、チーズはカルシウムの吸収率が非常に高く、効率的に摂取できる王道の食材です。
朝食の味噌汁を一杯減らし、その分を低脂肪のヨーグルトや少量のチーズに置き換えるだけで、塩分を抑えつつカルシウムを補強できます。
特にヨーグルトは調理の手間がなく、日常的に続けやすいのが利点です。

日々あふれる情報の中で、何をすべきかわからないときもありますよね。まずは、できることから小さくでかまいません。日頃の食生活からほんの少し見直してみましょう。

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