コラム

「心の姿勢」で健康寿命を極める2

前回は、健康寿命を延ばすための運動と心の姿勢について解説しました。
今回は、長寿の土台を築く「食事」と、私たちが見直すべき食習慣に焦点を当てます。

健康長寿者の食事には、野菜や魚を中心としたバランスの良い食事を心がけ、腹八分目を守っていることが共通しています。その中でも、特に意識したい栄養素が、DHA(ドコサヘキサエン酸)です。

脳と心臓を守るDHAのメカニズム

DHAは、脳や目の網膜、心筋などに多く含まれるオメガ3系脂肪酸の一種であり、私たちの体にとって非常に重要な「必須脂肪酸」ですが、残念ながら体内ではほとんど合成できません。
特に、DHAは脳細胞の細胞膜を柔らかく保つ役割を担っており、これが認知機能の維持や記憶力の向上に直結しています。
また、血液をサラサラにする効果を持つEPA(エイコサペンタエン酸)と共に作用し、心血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞)を予防する上で極めて重要です。

現代の日本人は食生活の欧米化により魚離れが進んでおり、DHA不足が深刻な懸念材料となっています。この不足を放置することは、将来的な認知症リスクを高めることにもつながりかねません。

実践!DHAを逃さない魚食の知恵

DHAを豊富に含む魚類を積極的に摂取することが、健康維持の要となります。理想的な魚介類の摂取量の目安は一日100gです。
魚のなかでも、特に脂ののった青魚(アジ、サバ、イワシ、サンマなど)を摂るように心がけましょう。
また、タラ、カツオ、ブリ、タイ、ウナギ、アナゴ、ヒラメ、カレイ、ホッケといった多様な白身魚もバランスよく摂ることが大切です。

調理の際には、DHAが熱に弱い脂であることを意識し、煮る・焼く・蒸すといった、脂が流れ出にくい調理法を選ぶことが推奨されます。
特に、缶詰は汁にDHAが溶け出しているため、汁ごと摂取することで栄養を丸ごと摂ることができます。

 和食の優れた栄養バランス

健康に繋がる食は、地域ごと、さらに遺伝子的な特徴によって左右されます。私たち日本人の体質に合った日本型の食習慣を深く理解することが、健康長寿への近道となります。

2013年にユネスコ無形文化財に登録された「和食」は、理想的な栄養バランスを示しています。
和食は、動物性油脂が少なく、食物繊維と発酵食品を多く含むため、日本人の肥満防止と腸内環境の改善に大きく貢献してきました。

和食を以下の頻度で摂ることが推奨されます。

  •  毎日: 主食(ごはん、麺類)と、豊富な野菜・果物・発酵食品
  •  週に数回: 魚介類海藻類油物
  •  月に数回: 肉類(牛肉・豚肉)やスイーツ

特に、和食の基本である「一汁三菜」は、このピラミッドを体現した構造です。ご飯(主食)、味噌汁(発酵食品)、主菜(魚)、副菜二品(野菜・海藻)という組み合わせは、自然と低カロリーかつ高栄養密度な食事を実現します。

また、和食の大きな特徴である「うま味」を上手に活用することで、過剰な塩分や動物性油脂に頼らない、満足感の高い食生活が実現します。
みそ・しょうゆ・漬物といった豆類由来の発酵食品や、緑茶に含まれるカテキンは、毎日の習慣として必ず取り入れましょう。

 健康を支える睡眠と飲酒の科学

健康長寿の土台は、適切な睡眠と節度ある飲酒習慣の上に成り立っています。
睡眠は単なる休止時間ではなく、心身の休息と修復に不可欠な「積極的な活動」です
睡眠には、体温や心拍数が下がり体を修復する
ノンレム睡眠と、脳を整理し記憶を定着させるレム睡眠のサイクルがあり、この質が心身の健康を左右します。

2021年のデータによると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、OECD加盟38ヵ国の中で最短です。
質の高い睡眠が継続的にとれないと、うつ病や認知症、さらにはメタボリックシンドロームや心臓病など、あらゆる生活習慣病のリスクにつながります。最低でも7時間程度の睡眠を確保し、就寝前のブルーライトを避けるなど、睡眠の質を高める工夫が不可欠です。

飲酒については、厚生労働省のガイドラインに基づき、健康に悪影響を与えないとされる、一日に純アルコール20g以下(ビール中瓶1本、日本酒1合程度)を適量とすることが推奨されています。

女性や高齢者は特にアルコールの影響を受けやすくリスクが高まるため、注意が必要です。アルコール摂取はストレス解消の一つかもしれませんが、心身の健康を守るため、「休肝日」を設け、適量を厳守する習慣を徹底しましょう。

生きがいと未来を考える

重要なのはただ長く生きることではなく、健康で充実した人生を送ることです。医学的な進歩に加え、心の持ちようが健康寿命に大きく影響することが分かっています。

生きがいを持って毎日を過ごすことが、ストレスの軽減、免疫力の維持、認知症リスクの低下に役立っています。

趣味や仕事、ボランティア活動などを通じて社会とのつながりを持ち続けることは、孤独感を解消し、心身の健康維持に役立つことが科学的にも証明されています。

自分なりの生き方を見つけていくこと。そして、「○○ができない」と考えるのではなく、「○○ならできる」と豊かなものの見方に目を向け、日々の小さな喜びと感謝の気持ちを大切にすることこそが、健康長寿という名の幸せな人生への第一歩なのかもしれません。

 

評価をお願いします

最近の記事