
「歯がしみる」「歯の表面が薄くなった気がする」──そんな違和感、放っていませんか?
その症状、虫歯や歯周病ではなく、あなたの歯が溶け出した「酸蝕歯(さんしょくし)」の可能性があります。(前号参照)
酸蝕歯とは、飲食物に含まれる酸や逆流した胃酸によって、歯の表面のエナメル質が少しずつ溶けてしまう状態です。炭酸飲料や柑橘類、黒酢、さらには逆流性食道炎まで、私たちの身の回りには歯にダメージを与える“酸のリスク”が潜んでいます。
飲食物と歯のリスク
酸蝕歯の原因となる飲食物は私たちの周りにたくさん存在します。
炭酸飲料のpH値は2.2〜2.9、オレンジやミカンのジュースはpH値が4.0前後、ビールでもpH値が5.0以下のものがあります。
これらを頻繁に摂取すると、酸蝕歯のリスクが高まります。一方、牛乳や麦茶などのpH値は約6.0程度で、歯へのリスクはほとんどありません。
柑橘系の果物も注意が必要です。レモンのpH値は2.1、グレープフルーツは3.2もあります。果物は体に良いものですが、口の中にある時間が長いと唾液の中和力が間に合わず、歯に影響を与えます。
また、酢を使ったドレッシングもpH値が3.1〜4.0のものが多くありますので注意しましょう。
逆流性食道炎も影響する?
逆流性食道炎は加齢、肥満、ストレスなどが原因で起こります。
この症状では、強い酸性の胃液や消化途中の食物が食道を逆流し、炎症を起こします。歯の健康には関係がないと思われがちですが、胃液のpH値は1.0〜2.0と強酸性です。これが逆流して口の中に入ると、酸が歯を溶かしてしまうのです。
逆流性食道炎は日本人の成人の約3人に1人が悩んでいると考えられています。普段からゲップや胸焼け、胃もたれに悩んでいる人は、消化器の症状だけでなく、酸蝕歯にも注意が必要です。
酸蝕歯を予防するには
酸蝕歯を予防するためには、酸性飲食物の摂取量と頻度を減らすことがもっとも効果的です。
また、就寝直前に酸性の飲食物を摂取した時は、歯磨きのタイミングにもコツが必要です。
酸蝕歯を予防する観点からいうと、これらを摂った直後は歯のエナメル質が軟化し、すぐ磨くとダメージを与えてしまいます。
一方、虫歯予防の観点からいうと、食後すぐに歯磨きをすることでプラークを除去し、虫歯のリスクを減らすことができます。とくに小児の場合はすぐ磨くべきでしょう。
そこで成人の方で、すでに「歯がしみる」「歯の表面が薄くなった」など、酸蝕歯の症状が出ている場合のみ、食後は口をすすいで30分程度経ってから歯を磨くとエナメル質に影響せずに歯を綺麗にすることができるでしょう。
また、就寝中は唾液の分泌が低下し、酸に対する唾液の中和力と再石灰化が弱まります。酸蝕歯や虫歯のリスクが高まりますので忘れずに磨きましょう。
唾液は「魔法の水」とも呼ばれます。日中もアゴを良く動かしたり、舌で上下の歯茎の内側、左右の頬の内側を押す、舌を回転させるなど簡単な体操をすると唾液の分泌が促され、酸蝕歯や虫歯の予防になります。
食事方法も一工夫を
食べ方も注意しましょう。健康に良いからと黒酢飲料などをしばらく口中に転がしてから飲む、梅干しやレモンを長時間舐め続けるのはやめましょう。食事中は良く噛んで食べ、酢の物の次は口の中を中性に傾ける味噌汁やご飯に箸をつけるといった三角食べがお勧めです。
歯科医院では、フッ化物の塗布で歯の耐酸性を向上させる予防処置が保険適用となっていますし、セルフケアでは、フッ素含有の歯磨き剤やマウスウォッシュの使用で、歯の健康を守れます。ちなみにフッ素は緑茶に含まれています。食後に一服すれば、酸蝕歯の予防が期待できますね。
酸蝕歯の対策は早期発見が重要です。
3ヶ月に一度は歯科検診を受けて、ご自身の歯の状態を確認しましょう。
健康管理士の松渓(マッケイ)と申します! 若い頃はスキー三昧の日々を送っていましたが大ケガをして引退。そこから健康のありがたみに目覚めました。皆さまの日々の暮らしに「ちょっと役立つ」情報を随時発信していきますので、参考にしていただければ幸いです。
残念ながら、25年ほど健康関連の業界に身をおく私からすると、世にあふれる健康情報の中には「?」と首をかしげたくなる内容も。そのため、つい辛辣な言葉もでてしまうことがあると思いますが、どうかご容赦くださいませ。